僕が美容室で体験した恐ろしい南極時間(ヒエヒエタイム)

思い出
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おはようございます。百井桃太です。

 

突然ですが、皆さん美容室とか床屋とかで髪切ってくれる人と会話しますか?

 

 

僕はですね、あれ凄く苦手なんですよね。最近アラサーに近付いてきて大分慣れてきましたが(大器晩成型)出来れば会話ゼロでやり過ごしたいくらいあるんです。

 

「話したくない人は置いてある雑誌とか読んでたら話しかけられなくて済むよ」っていう方もいらっしゃるかと思います。ええ、僕も試したことがあります。でもですね、あれはあれで問題ありなんですよね。まず、本の間に自分の髪の毛が落ちるのがすげえ気持ち悪い。自分の髪の毛なんで汚いとかは思わないですけど、不特定多数の人が読む本なので、「もしも僕の毛が挟まったままだったら、次に読む人はめちゃめちゃ不快だろうな」と思ってしまうわけです。

 

あと中学生の時、通ってた床屋で会話をシャットアウトするために適当に本から漫画を取って読んでたんですが、それが「RAINBOW-二舎六房の七人-」で(床屋といえば大半はゴルゴ13と将太の寿司だが、そこの床屋は何故か漫画選びのセンスが尖っていた)しかも読んでたところがちょうどジョーがババアに性的虐待を食らうシーンで全身が硬直しました。後ろで髪切ってくれている人からも漫画は見えるので、やべえシーンだとは思いつつも、そこでページを止めるのもおかしいし、かと言ってそこだけあまりに早く捲りまくるのも「いやこいつエロシーンに赤面しとるやん」って思われてしまう……!!そんなクソしょうもない謎の葛藤に板ばさみされるというトラウマ体験も散髪している時に本が読めなくなった原因の一つです。

 

そんな僕も年を経るにつれて徐々にコミュニケーション能力を形成していき、大人になって人並みに会話ができるようになったのですが、そんな中、小慣れてきた僕を地獄に突き落とすような、悪夢のような、エンドレスナイトメアのような事件がありました。今回はその事件についてお話しします。

 

あれは社会人になってすぐの頃でした。

 

当時通っていた美容室は大学時代から通い始めた美容室で、それまでいわゆる「床屋」通いだった僕の美容室童貞を奪った初美容室でもありました。そして僕は性格がかなりのハト派、ゴリゴリの保守派なので大学一年から卒業を経て社会人になってもその美容室に通い続けていました。夫婦二人でされている美容室でアットホーム感もあって普通に気に入っていました。

 

そして僕はその五年くらいの期間、ずっとその美容室の奥さんにカットをしてもらっていました。僕は髪が硬いので、少し油断をした人が考えなしにカットをすると、スネ夫みたいに前髪が浮き上がります。また、顔が長いので、少し油断をした人が力任せに横髪をカットをすると、トリックアートよろしく齊藤洋介さんみたいに顔が長くなったりしてしまいます

 

しかしその奥さんは僕の髪質を見極めてあり、長くやっていただいている事もあり、安心してカットを任せることができていました。

 

そんなこんなでまた髪を切りに行く予約をしたある日。

 

その日は午前中ゴルフに行って、午後から髪を切ってもらうというスケジュールの一日でした。ゴルフは初心者でしたが、なかなか調子が良く当時としては割といいスコアを叩き出すことができました。調子の良さと、運動をしたことによる爽快感も手伝って髪を切りに行く直前はテンションが当社比で130%くらいでした。

 

爽快な気分で約束の時間にいつも通り美容室を訪れます。入ってみると、旦那さんがいらっしゃり「あ、こんにちは。ちょっと待っててくださいね〜」と笑顔で挨拶をしてくれます。やはりアットホームで雰囲気が良いなぁと思っていました。

そして案内され、椅子に座らせられ、白い布をかけられる。

 

ここで僕は少し違和感を覚えました。

ずっと僕の対応を旦那さんがしていたのです。いつもであれば、白い布を掛けるとこから既に奥さんが来て、「今日はどうします?」と聞いてくるはずでした。

 

最初に申し上げたように、僕はできることなら美容師さんとの会話はゼロを望んでいます。自ら話し掛けるなんてことは話が盛り上がりでもしていない限りほぼありません。しかし、なんの運命の悪戯か、その時はテンションが当社比130%になっており、軽く口を開いてしまったのです。

 

僕「奥さんは今日はお休みですか?」

 

旦那さん「妻は出て行ったんです」

 

ああ、出て行ったからいないのか。ふ〜ん。

 

思って数秒後、心の中で「デッ!!?」と叫びました。二度見ならぬ二度思(にどし)です。

 

ちょっと待って。今この人なんて言った?「出て行った」と言ったのか?

 

待て待て待て、「出て行った」ってなに? 別れ的な「出て行った」なのか?言い方的には明らかにそうだよな?えっ、僕、今自らとんでもない地雷にボディプレスかましたのか?地雷がたくさん埋まっている平原でマイムマイム踊っちゃったのか?え?まじ?

 

いやいや、でも待てよ。本当にやばい「出て行った」ならそんな軽々しく言うかい?ちょっと間を持たせて、「……妻は、出て行ったんです」って言うよな!?そんな感傷も読み取れないような速度ですぐ「出て行ったんです」とか言うかい?しかも、しかもよ。僕が美容室に来た時、この人めちゃめちゃ愛想良かったよね?出て行ったんならそんな笑顔普通無理よな?いや、そこらへん考慮するとやっぱ違うよな?いや、絶対違うよな?これセーフだよな。完全にセーフのやつだ。そうに違いない。僕の中の審判団も四人集まって大きく腕を水平に伸ばしました。「セーフ、セーフ!!」

 

旦那さん「昨日、大喧嘩しましてね」

 

がっつりアウト

 

なんやねん。良い年こいて喧嘩して家出しとるやないか。

 

そう考えるとだんだん腹が立って来ました。

いやいや、もうちょっとオブラートに包めや……。「オブラートに包む」っていう巷に溢れた言葉知らんのか?それを聞いて、客で、しかも担当してもらっていた僕はなんて返せば良いのか?普段ですら会話したくないと思っている僕がそんなゴリ重い試練みたいな話題に対して正解の切り返しをできると思っているのか?

 

まあ百歩譲って「出て行ったんです」ってのを言うにしてもよ。

 

カット開始して五分も経ってない今じゃないでしょ?

 

ここから僕が店を出られるまで早くてもあと三十分以上あるんですよ。絶対にそんな序盤でかます話題じゃないだろ?いや聞いたこっちも悪いけどさ。そこはとりあえず「ああ、妻ですか。ははは」とか言ってくれたらこっちだって察するわいな。あ、なんかあったんだな、聞いちゃいけないんだなって察するわいな。それを何?「出て行ったんです」はあかんでしょ。MISIAは「優しい嘘なら要らない」って歌ってたけどさ。僕は要るよ、優しい嘘、ガッツリ必要とするよ。

 

結局そのあと何を会話したのかは覚えていませんが、僕と旦那さんの二人しかいない美容室の中は南極よりも体感温度がヒエヒエだったのだけは覚えています。本当に恐ろしい時間でした。ゴルフで130%に仕上がった当社比テンションは一気に暴落し、上場廃止までいきました。

 

そしてなんとか地獄のような空間から出て家に帰ると母親が

 

母親「あんた、何その髪型? 後ろ髪残っとるやん」

 

地獄を脱出したい一心で全く髪型を気にしていませんでしたが、僕の髪を初見カットする旦那さんも嫁がいなくなった動揺を隠しきれていなかったのでしょう、僕の後頭部の髪だけがカットされずに残っていたのです。いや、どういう状況?

 

もう一回切ってもらって来な、という母親に心の中で「あんたはあの空気を、温度を知らないからそんな軽口を叩けるのさ……」と罵りながら僕はその美容室の電話番号を消しました。後頭部の髪の毛は残るし、心の温度はヒエヒエで精神的ダメージも受ける。五年通いましたが、そんな一件から馴染みの美容室を切り捨てる僕は鬼なのでしょうか?なんと言われようとも僕には南極より冷たいあの空気の中で雑誌もなしで闘うのは不可能だったのです。

 

というわけでだんだんと美容師さんとの会話に慣れ始めた僕はPTSDを植えつけられ、自ら美容師さんに話し掛けることはなくなりましたとさ。めでたしめでたし。

 

【今日の教訓(偉人風)】

 

藪は絶対につつくな。藪っぽいところ(奥さんがいない状況)を見つけても絶対につつくな。蛇よりも恐ろしいものが藪の中で待っているから。

 

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