【感動大作】溝に落ちた仔猫を救出した話

おすすめ
スポンサーリンク

始まりは唐突でした。

 

「ニィ……」

 

朝、出勤をしようと思って準備をしていた時、どこからともなくか細い声のようなものが聞こえたのです。

 

 

僕「今、なんか音がした?」

 

嫁「ような気がする。なんの音?」

 

耳をすませてみると

 

「ニィ……ニィ……」

 

確かに聞こえます。どうやら仔猫の鳴き声のよう。

 

どこで鳴いているのだろうとベランダに出て周囲を覗いてみると、家の隣にある細い溝の中に仔猫がいました。

 

その溝は一番底の部分まで降りてしまうと、柵まで込みで2メートルほどの高さがありました。その時は雨が降って降り、溝の一番底には水が溜まっていました。猫がいたのはその一段上、「ヘリ」の部分でした。

 

文章だけだと説明しづらいのですが、その時は写真を撮っていなかったので無料画像の組み合わせで説明するとこんな感じです。

画像1

 

水が溜まったところの一段上のへりで仔猫が「ニィ……ニィ……」と鳴いているのでした。何を鳴いているのかと思ったらどうやらアクシデントでそこに落ち込んでしまったらしく、壁をずっと登ろうとしてはずり落ち、登ろうとしてはずり落ちを繰り返し鳴いているのでした。

 

この画像では溝はそんなに深くなく、地上に上がるまでにそんなに高さはありませんが、先ほども言ったようにこの時仔猫が落ちていた溝から地上までは少なくとも1m50cmくらいあったように思います。

 

大人の猫ならいざ知らず、仔猫ではどうしようもない高さです。

 

別にあまり気にすることもないだろう、と思ったのですがあまりにも「ニィ…ニィ…」と鳴き続けるので心配になって来た僕と嫁。

 

嫁「こういう時、どこかに連絡したら助けてくれるんかな?」

 

僕「いやあ……。なんか昔仰天ニュースみたいなやつで見たけど警察とか消防とかは動いてくれんやろ……。こういうので呼び出されていたらキリないし」

 

嫁「そうかぁ」

 

そうこうしているうちに僕は出勤の時間となったので、猫の様子を見守ることは嫁に託し出勤することに。

 

そのまま普段通り仕事をしていたのですが、午後になって気になっていたので様子を聞いてみると……

画像2

画像3

画像4

 

いなくなってしまったのか……。

 

しかしまぁ、溝は溝で確かに深いのですが、端まで行けば普通に道に出れるようになっているし仔猫もやがてそちらから脱出するだろう、と僕はそんなに心配していませんでした。

 

そんなこんなで仕事を終わらせて帰宅。

 

 

そして眼前に広がるお通夜みたいに暗い家の中

 

 

え?と驚いていると、リビングで明らかに落ち込んでいる嫁。

 

嫁「ううう、仔猫助けてあげればよかった……。グズグズしていたせいで溝に落ちて流されてしまったかもしれん……。ううう……」

 

さっきのラインにあったようにボチャン!って音を聞いたりしていたので余計にショックが大きかったのでしょう。

 

嫁「悲しくなったから、外行って花買って来て手向けたよ……」

 

献花?

 

まさかの家で野良仔猫の献花をするとは思いませんでしたが、それほどにショックだったのでしょう。僕も「大丈夫大丈夫、野生の力舐めたらあかんて」と武井壮が言いそうなよくわからないことを言って励ますのが精一杯でした。

 

 

〜翌日〜

 

 

朝、いつもと同じように出勤の準備をしていると嫁が騒ぎ始めました。

 

嫁「また仔猫の声せんかった!!?幻聴!!!?」

 

嘘やろ、ついに嫁が錯乱し始めた……とゾッとした時

 

「ニィ……」

 

聞こえた!!!!

 

まさかの幻聴ではありませんでした。慌ててベランダに出て溝を見ると昨日と全く同じ場所に昨日と同じ仔猫が。

 

生きとったんかワレ!!

 

相変わらず溝のへりで登ることができず、仔猫はうなだれていました。

 

嫁「ああ、生きてたんや……。良かった。でも一晩中溝におったんやな……。大丈夫かなぁ……。また溝に落ちちゃわないかなぁ……」

 

その言葉を聞いた瞬間に、昨日の帰宅後のお通夜みたいな家の中が脳内にフラッシュバックしました。

 

また溝に落ちたりしちゃうと、家の中があんな雰囲気になっちゃうかもしれない……。

 

これはもしや、家庭内の明るさを取り戻すために神様が僕にくれたチャンスなのだろうか。

 

仔猫を助けるチャンスをくれたのだろうか。

 

これまでの人生をトータルすれば今の所、地獄行きやけれども、ここで仔猫を助ければ天国に行けるよという神様からの思し召しなのだろうか。

 

その考えに加えて嫁が悲しそうな目でジッとこちらを見つめていたことに耐えられず僕は遂に宣言しました。

 

 

僕「オーシ、仔猫のレスキューいっちょやってみっか!!!」

 

 

出勤前、トラブルがあっても遅刻しないようにと早めに起きてはいますが、のんびりしているような時間はありません。これはもう短期決戦で行くしかねえ。と早速家を飛び出し、溝のところに行きました。

 

そこに立ちふさがる葉っぱ、葉っぱ、葉っぱ

 

溝は家の裏手にあるのですが、基本的にそんな場所に人が行くことはないので、裏手に続く道には自分の背丈くらいある葉っぱがゴリゴリに生い茂っているのです。

 

僕は虫が大嫌いなので、いわゆる虫のいそうな森とか葉っぱとかも嫌いです。ましてやそんな中に体ひとつで突っ込むなんて言語道断。

 

しかし、二階を見るとベランダからこちらをジッと監視している嫁が。

 

嫁「そこ越えたらすぐやからー!いけ!」

 

THE他人事

 

嫁からしたら「SASUKE」を見ているくらいの感覚なんでしょうね。タイミングとか気持ちを整えてる時に「早くー!時間ないよー!」とか行っちゃうSASUKEギャラリーかコイツはと思ってしまいました。

 

ただもう迷っている時間はありませんでした。

 

腕をクロスさせ「ングーーーッ!!!」と言いながら葉っぱに突入し、ダッシュで駆け抜けました。

朝8時、奇声をあげながらダッシュするアラサー。冷静に振り返って見ると事案じゃん。

 

しかしなんとか葉っぱゾーンを乗り越えて安心していると

 

嫁「その葉っぱトゲトゲ付いた葉っぱやったけど、大丈夫か?」

 

 

なーんで後から言うのかい?

 

 

長袖着てたからいいものを半袖だったら二の腕に葉っぱ鬼刺さりやったかもしれんぞ、と心の中で悪態をつきながらもそんな文句を言っている時間はないので、溝へ向かいます。

 

目の前には柵、そして溝。柵を乗り越えると、深い溝の下に仔猫の影が見えました。

 

待ってろよ、仔猫。今、僕がその深い闇から救ってやるからな。

 

颯爽と飛び越え、深い溝に慎重に着地。当たり前ですが全く手入れなどされていないただのドブ。ボーボーの草が生い茂り、泥まみれで汚いドブです。この年齢になってまさかこんな汚いドブに自ら足を踏み入れるとは。小学生高学年でももう入らなくなったドブにアラサーの男がズカズカと入って行く様子は一種のドキュメンタリーか、と思いました。

 

ドブに降り立ち、仔猫の近くへ寄りました。もしかすると逃げられてしまうのかもと思っていましたが、仔猫はこちらに気付いても逃げる様子はありません。

 

そうか、やっぱり怯えていたのだな。

 

一日中、このくらいドブの中で震えていたのだな。

 

お母さん猫と離れてしまい、鳴いていたのだな。

 

助けを求めていたのだな。

 

マザー・テレサみたいに慈愛に満ち溢れた笑顔を湛え、僕は仔猫に手を伸ばしました。

 

よし、と指先が触れ合いそうになった瞬間

 

 

仔猫「シャーーーーッッッッッ!!!!!」

画像7

※イメージ図

 

 

虎かと思うくらいの威嚇

 

 

なんで朝のクソ忙しい時間にトゲ葉っぱゾーンを突っ切り、ドブにまで足を突っ込み、優しい笑顔で手を伸ばして威嚇されねばならんのか。

 

 

僕「怖がらなくて大丈夫だよ、僕は君の味方だよ」

 

 

モンスターを操って戦う系の漫画の第一話の主人公みたいな口調で語りかけていましたが、通じるはずもなくお前は勝俣かと言うくらいに「シャーーー!!!」を続けまくる仔猫。

 

これは仔猫とはいえ、無理に掴むとマジで噛みつかれる可能性がある……。恐れた僕は一旦ドブから上がることにしました。

 

ドブから上がって、窓からずっとこちらを監督している嫁に声をかけることに。

 

僕「なんかめちゃくちゃ威嚇されるから、噛まれんように手袋かなんかないか?」

 

嫁「手袋とかあったかなぁ……ちょっと待ってて」

 

そして1分後、嫁は「あったあった」と窓から体を乗り出しました。その手に握られていたものは

 

 

画像5

 

 

明らかに猫握る手袋じゃねえだろがい

 

 

これは僕のゴルフ用グローブ(左手)です。しかも一つしか持ってない唯一のゴルフグローブ。お気に入りのCallawayのおしゃれなグローブ。なんでそのお気に入りのグローブ使ってドブで震えている野良仔猫を捕まえにゃならんのか。しかも片手用。レベル高いし。てか「猫に噛まれないように手袋持ってきて」って言ってゴルフのグローブ持ってくる人います?

 

「そのグローブはダメだ」と諭し、ちゃんとしたゴム手袋(両手用)を探してきてもらい、窓から投げ渡してもらいました。

 

両手にゴム手袋を装着し、いざまたドブへ舞い戻る。

 

まさか今の僅かの時間の間に逃げてしまうのでは……という懸念がありましたが、仔猫はその場から一歩も動いていませんでした。もう一度近付くと今度は寂しそうな顔をして「ニィ……」と声をあげます。

 

さっきの威嚇は何処へやら。とりあえず助けてはもらいたいけど簡単に抱かせるのは癪だからひと威嚇入れてみたら予想外に僕がドブを離れてしまったので「え、ちょっと待ってそういうつもりじゃなくて……今のは、ほらご愛嬌みたいなもんで、嘘でしょ?本当に行っちゃうの?嘘やぁん」という感じだったのでしょうか。仔猫が駆け引きすなよ。このツンデレが。

 

とりあえずドブの底で足を踏ん張り、そっと両手を伸ばし仔猫に触れました。初めて触る小さい小さい仔猫。両手のひらより少し大きいくらいのサイズでしたがあまりの小ささに驚きました。

 

僕「長いことよく頑張ったなぁ……!!もう安心やからな!!」

 

両手が塞がっているのでなんとかドブの壁に足をかけつつ、柵の上まで手を伸ばし、仔猫を無事解放。仔猫はたどたどしい足取りですぐにどこかに走り去って行きました。

 

達成感に打ちひしがれながら、窓のところまで戻ると嫁が「ほら、あそこ」と指差していました。その先を見ると、成猫がこちらをじっと見ています。

 

嫁「あれ多分お母さん猫やん。多分仔猫を心配してずっと見とったんよ」

 

僕「じゃあ『ありがとう』って伝えたくて現れたんやろな。いいってことよ。生物皆兄弟やからな。この宇宙船地球号で助け合って生きていきましょうや」

 

朝からいいことをしたという全能感、幸福感に包まれながら出社し、誰かに即「僕、今日朝一匹の仔猫の命救ったんすわ」と言いたい気持ちを抑えていつも通り仕事に励みました。しかしやはり、人助けならぬ猫助けっていいもんだ。

 

 

 

 

そう思っていると夕方、嫁からラインが届きました。

 

 

画像6

 

 

 

どういうこと

 

 

僕が今日、わざわざ降りて仔猫を助けたドブに今日助けた猫とは全く違う仔猫が二匹もいるではありませんか。しかも楽しそうにじゃれてたらしいのです。

 

 

え……ちょっと待て……考えてみよう

 

 

 

……

 

 

………

 

 

 

僕、余計なことしたん?

 

ここに別の仔猫二匹いる(しかもじゃれあっている)ってことは普通にこのドブは仔猫のテリトリーってことじゃん?

 

えっ、じゃあ僕は普通のテリトリーにいた仔猫を無理矢理捕まえて移動させただけなの?メリットゼロモーニング人力UFOキャッチャーなの?

 

そしてあのお母さん猫も「うちの仔猫を助けてくれてありがとう」ではなく「お前、うちの楽しく遊んでいる仔猫をなんでわざわざ移動させんねん?」という疑念に満ち溢れた視線を向けていたのでしょう。

 

 

僕の朝の苦労は一体なんだったんですか?

 

 

トゲトゲの葉っぱに体当たりした僕の勇気は絞り損だったんですか?

 

 

その後、僕たち夫婦は外からいくら「ニィ……ニィ……」と聞こえても一切反応しなくなりました。お前らその助け求めてるみたいなか細い声出すのやめえよ。猫ビギナーが「俺のこと呼んでる!?助け求めてる!?」って勘違いするから。

 

とりあえず無為なSASUKEみたいな時間を朝から過ごしてしまったという話でした。

 

 

一応猫助けをしようとしたという気持ちを評価して、みなさんにこの話を記事を拡散していただけることを心より祈っております。

 

「深イイ話」で紹介してもらえる日が来ることを祈り、本記事の締めとさせて頂きます。

 

 

 

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました